雪はあらゆる汚れをかくしてくれる
2018-02-07

収穫し残した白菜―今年度最後の収穫物―を
救出するため訪れた夕刻の畑。
そこはすでに道もへったくれもない ただの雪原。

記憶を頼りに足跡を築いてルートを拓き
膝丈近い”波”を漕いで目印へたどり着く。
ここまで積もる前に来なかったことを悔やみながら
ゆうに50センチは雪を掘ったか。

「赤い熊がおるーっ!」
白一色の中に作業着の原色を見つけた畑主の“歓声”を背に
シャベルと手で原始的に掻きまくり掘りまくり
容赦ない冷たさにおかしなテンションになりながら
ようやっと3株ほど……。
成長しきれなかった白菜を引っ張り出す。

手はしびれても 暴れた身体は寒くない。
せっかくの”雪遊び”は立ち去りがたく 座り込む。
雪はあらゆる汚れをかくしてくれるから
こちらまで浄くなった気分になれて心安らぐ。

そのまま仰向けに寝転がった途端、
一切の音が消えた。

二羽のカラスがはるか上を定速で横切ってゆくのが
記録映画でも観ているよう。
冬らしくない牧歌的な雲が意外に速く流れゆくのが
日常なのか旅の空なのか。

この世から遮断されたみたいな静寂の中で
今まで気づかなかったチョロチョロ流れる水だけが
雪よりも下のどこからか伝わってくる。

地球上で連綿と続いてきた営みは
変わらず粛々とくり返し進行している。
そんな当たり前のことに 今更のように驚き安堵する。

厳冬に抑えこまれている今も
日は急速に長くなり
枯れ枝には はや芽吹きの準備がビッシリ整う。

ここは 大地の気配に耳を澄ます機会を与えてくれる。

ともすれば人間界の小事に囚われがちなヒトを
自然界の壮大な動きの中へ引き戻してくれる。

「――どこにも行きたくない」。
畑主の気持ちが あらためてわかった気がした。

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